中世ヨーロッパの生活

どの時代、どの地域でも変わらない人の性に興味があります。

ノマド(nomad)の語源

はじめに

ノマドとは、英語のnomadまたは仏語のnomade(遊牧民)に由来しており、「ノマドワーカー」の略語です。ノマドワーカーとは、オフィスなど、特定の場所にとらわれずに働く人のことです。自宅だったり、河原だったり、山奥だったり、ネット環境さえあればどこでも働ける人のことです。

……という情報が検索すればたくさんでてきますが、そういうことが知りたいわけではありません。わたしが知りたいのはnomad(英)やnomade(仏)の語源です。この単語はローマ字読みの発音をしますから、ゲルマン系の言葉ではなくラテン系の言葉が起原になっています。ゲルマン系言語とラテン系言語については、語源からたどる西洋と日本の「政治」の違いを参照してください。

今回は、ノマドの語源を紹介します。

 

ノマド遊牧民を知ったきっかけ

モンゴル

秋のモンゴル

ノマド遊牧民を意味すると知ったのは、モンゴルを旅したときでした。モンゴルの伝統料理を食べられるレストランの名前が、Modern Nomadsという名前だったのです。モンゴルといえば遊牧民なので、Nomadsを店名に入れたのでしょう。

モンゴルの歴史的な話をすると、13世紀にチンギス・ハーンとその子孫たちが東洋から西洋までの領土を持つ大帝国を築いています。日本への2度にわたる元寇(1274年、1281年)もこのころですね。世界的に見ると、数々の国がモンゴルの圧倒的な騎馬力に敗北していますが、日本がモンゴル(元)に支配されなかったのは、島国という地理的な優位性があったからだと考えられます。もし中国から大陸続きで日本が存在していたとしたら、モンゴル人に敗北していたことでしょう。

チンギス・ハーン像

チンギス・ハーン

大帝国を築いたチンギス・ハーンをモンゴル人の方々は非常に誇らしく思っています。旅先で訪れた遊牧民のお宅(ゲル)にはチンギス・ハーン肖像画が飾られ、首都ウランバートルの広場には大きなチンギス・ハーン像がありました。モンゴルは今まで訪れた国のなかで一番のお気に入りで、熱く語りたいことが色々ありますが、またの機会にお話します。

 

ノマドの語源

ノマドの語源はギリシア語です。ラテン系言語の元になったラテン語nomadという単語がありますが、ラテン語はそもそもギリシア語が元になっています。

ところで、欲しいと言っていたギリシア語の辞書、ついに買いました!オックスフォード大学出版の、Intermediate Greek-English Lexiconです。不思議の国のアリスのモデルとなったアリス・リデルの父親であり、オックスフォード大学クライストチャーチの学寮長でもあったヘンリー・リデルが編集者の1人となっています。古代ギリシア文学を原文で読みたい方におすすめの辞書です(印刷が粗悪な辞書が出回っているようで、購入するときはオックスフォード大学出版の辞書安心だそうです)。

その辞書に、νομᾰδικόςという形容詞がありました。発音はnomadikos(ノマディコス)です。辞書は男性系から書く規則なので、これは男性系です。女性系はνομᾰδική、中性系はνομᾰδικόνです。ギリシア語もフランス語やドイツ語と同様に性があり、男性名詞には男性形容詞が、女性名詞には女性形容詞が、中世名詞には中世形容詞がつきます。

νομᾰδικόςの意味は以下の通りです。

 

of or for a heardman’s life, nomadic, pastoral, Arist.

 Henry George Liddell, Intermediate Greek-English Lexicon, 1980, P. 534

 

日本語に訳すと以下の通りです。

最後の「アリストテレス」というのはこの辞書独特の書き方で、どの単語の意味にも最後に人名がついています。アリストテレス(前384-322年)の著作ではそのような意味で使っていた、という意味です。

 

牧人生活の・牧人生活に関して、遊牧の、羊飼いの、アリストテレス

 

「遊牧」と聞くと馬、牛、ラクダ、羊、ヤギ、どんな家畜でもありのイメージですが(モンゴルの遊牧民はそうです)、辞書の意味に基づいて考えると、昔の遊牧は羊の放牧という意味が強いようです。ちなみに、英語のheradmanは「牛飼い座」という意味もあります。herdは羊に限らず動物の群れを意味する単語です。

ユダヤ教の聖書(キリスト教における旧約聖書)には羊飼いの記述がでてきます。ユダヤ教は、バビロン捕囚(前600年頃)という事件がきっかけとなり、誕生した宗教です。バビロン捕囚とは、新バビロニアの王ネブカドネザル2世が、ユダ王国の民を捕虜として連行した事件です。

このことから、羊飼いという職業が大変古いことが分かります。ユダヤ教が生まれた土地は中東ですが、ギリシアは地理的に中東に近い位置にありますから、ギリシアでも(少なくともアリストテレスが生きていた時代には)羊飼いを生業とする人がいたことでしょう。νομᾰδικόςはそのような、羊を連れて流浪することを意味していたと考えられます。

 

 

おわりに

今回はノマドの語源を紹介しました。はじめにノマド遊牧民を意味すると知ったきっかけを、次にノマドの語源を紹介しました。ノマドの語源は、ギリシア語の形容詞νομᾰδικόςです。νομᾰδικόςには、「牧人生活の、遊牧の、羊飼いの」という意味があります。「遊牧」と聞くと現代では羊に限らず放牧できる家畜すべてのイメージですが、古代ギリシアにおけるνομᾰδικόςは特に羊の放牧を表していたと考えられます。

 

以上、ノマドの語源についてでした。

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